アクティブ・ラーニング型キャリア教育ワークブック やる気の根っこ
未来ノート
導入校インタビュー
全学的なキャリア教育の導入とその成果 〜 長崎リハビリテーションの取り組みに学ぶ 〜 キャリア教育が全ての学校種での重要課題となっている今日、アクティブ・ラーニングによるワークブック「未来ノート」を使って、全学で「キャリア教育」を推進している長崎リハビリテーション学院の取り組みを紹介したいと思う。 長崎リハビリテーション学院は、1981年に九州でいち早く理学療法学科を設立し、現在は理学療法(二部)、言語療法、作業療法と合わせて4学科を設置している。開学以来、輩出した学生は2000名を超え、九州を中心に多くの医療機関等で活躍をしている。 はじめに:キャリア教育導入の成功のポイント(学院の理念と経営トップの理解) 先生方へのインタビューの前に、本川哲学院長からお話を伺うことができた。 「九州で2番目に開学した理学療法学科であり、長崎を中心に九州全域で卒業生が活躍していることから、就職率100%の実績を堅持できている。国家試験の合格率を上げることはもちろん教育機関として重要なことであるが、同時に学生一人ひとりの人生を考えることを大切にしている。 卒業生の活躍の場は、高齢化社会という時代の要請もあり病院、福祉施設と広がりを見せている。学院で学んだ知識と取得した国家資格をどのような場で、どのように活かしていくか、一人ひとりがデザインできる力を在学中に身につけさせ、社会に送り出すことが学院の使命のひとつであると考えている。」 本川学院長は、永年に亘って臨床と医学教育に携わってこられた医学博士である。学院の経営も担うトップの「学生の人生を考えることを大切にする」という理念こそが、学院の心柱であり、キャリア教育の推進を支えていることが伝わってきた。 1.キャリア教育導入の経緯 理学療法学科の学科長を務める増本先生は、近年、学生の変化に「もやもやとした思い」を抱いていた、と言う。専門職を目指して入学してきたはずの学生が、目的意識が希薄であったり、職業理解も曖昧であることや、自分で考えて、それを相手に伝わるように表現する力が弱いと感じることも増えてきたと感じていた。本来、多くの学びが得られる病院実習を経験しても「こんなはずではなかった」など、実習の成果を感じられない学生が少しずつ増加していることも気がかりであった。 そこで、学生を指導する中で感じている「何かが違う」という思いにヒントを得たいと考え、4年程前にTCE財団主催の研修に参加し、「キャリア」や「キャリア教育」という言葉と出会ったことが、学院でのキャリア教育への取り組みのきっかけとなったという。 その後、橋口先生と「未来ノート」活用研修会に参加して、カリキュラムの内容が、学生たちが社会に出てから活かせるのではないかと実感したという。そこでの学びや気づきを全学で共有するために、各学科から1名ずつメンバーを募り、「キャリアとは?」などをテーマに5〜6人で報告会・勉強会を行うという地道な活動を続けて来られている。平成28年と29年の「未来ノート」活用研修会や、キャリア・サポーター養成講座に複数のメンバーが参加されるなど、裾野を着実に広げてきた。 そこで、従来の「理学療法概論」を見直して、前年度まで2コマ実施していた理学療法概論の1コマを使って、「専門職としてのキャリア・デザイン」をコンセプトとして「キャリア教育」をスタートさせることを検討した。「平成29年度からキャリア教育をカリキュラムに取り入れたい」と井﨑副学院長、加治学科長に上申すると、「学生のためになることであり、ぜひやりましょう」と許可を得ることができた。 国家資格取得を目指す学科では、必須科目や実習時間の定めがあり「キャリア教育」科目をカリキュラムに導入する際の壁になると感じている学校も多いが、それまでの4年間の取り組みをFD研修で随時報告し、教学のトップの理解を得ていたこと、若い教員が興味を持ってくれたことが大きな力となったという。 2.「未来ノート」を使った授業の実際 1年生は、入学後の学院生活やクラスにもなじんできた5月末にスタートし、「未来ノート」の第1章、第2章「自己理解」を8コマ実施している。ワークを通して「自分を表現する・人の話を聴く・話し合いをする」ことを体験し、力をつけていくことを目標としたカリキュラムである。 授業を担当した町田先生は、他の教科の成績が芳しくない学生の方がノリが良く、専門科目の成績も後期に伸びるという結果が得られたとその成果を実感している。他の学生と話し合うことで、授業への取り組み姿勢にも変化が見られ、そのことが力を伸ばすことにつながっていったと考えられるそうだ。また、先生たちがキャリアを自分のこととして取り組んでいく契機になったとも感じている。そして、専門学校には、専門知識・技術と併せて、実社会で働く上で求められる態度・姿勢を学ぶための授業も必要であることをこの1年の取り組みから実感されたということだった。 2年生は、早井先生が企画し、キャリア・サポーターである藤田先生と自己理解を担当、増本先生と橋口先生が仕事理解を担当され、年間で12コマを実施されている。理学療法学科は2年次に病院実習が定められているが、近年、目標意識の曖昧さ、医療施設の種別など基本事項の理解不足などの要因から、実習の成果が十分に得られなかった学生も散見されるようになっており、学院全体の課題としての認識があったそうだ。 最初は、経験の浅い若い先生は授業を担当することに不安も感じているようだったが、授業をしている様子がとても楽しそうだったので、サポートについた先生も安心できたという。 また、第4章の「模擬店を出そう!」を「病院を作ろう!」というテーマに置き換え、実習の事前学習として、病院を7種別に分け、職種・職務内容・医療連携などをグループワークで学習し、実習生の役割を考え、実習の目標設定をする内容にカスタマイズするなど学院独自の工夫も行われている。 各学年とも授業は担任と他に1名の教員が入る2名体制とし、前述の勉強会のメンバーは、授業前の準備だけでなく、授業後のフィードバックを必ず行うことで授業改善につなげている。。この地道な全学での取り組みや互いに学び合う、まさにアクティブ・ラーニングを先生方自身が実践されていることが学院の「キャリア教育」の基盤となっていることを改めて感じた。 ✤学生の感想から(1年・2年) ・自分はどういう人間なのか主体的・客観的に考えることができました。自分が目標とする理学療法士像がはっきりしてきました。 ・周りとの意見交換を行うことで、自分の考えと違った意見を聞くことができ、改めて自分の意見を見直すことができました。社会に出たら絶対に必要な能力なので、2年生での授業も楽しみにしています。 ・自分達で考え発表することで、たくさんの人の意見を聞けて、相手の考えを知ることができ、とてもいい経験でした。 3.今後の展開(おわりに) 平成30年度から、言語療法学科にも藤田先生が担当して「未来ノート」を導入し、全学を挙げて「キャリア教育」を導入する体制を整えている。増本先生は、今後の課題として、「出口」=「就業」を強化するために、「ジョブ・カード」の導入の視野に入れている。入学から卒業まで一貫したキャリア教育の流れを完成させ、何よりも、学生が社会に出て、専門職として自ら考え、自らの人生を選択していける力を養成していきたいと考えている。 新たな取り組みを推進するためには、リーダーの存在は欠かせない。しかし、それを本当の意味で根付かせ、発展させていくためには、組織のメンバーでの共有が大きな原動力となることを改めて感じている。一人の先生の「もやもや感」から始まった取り組みは、「やってみる→振り返る→気づく→やってみる」の地道な活動の積み重ねと、縁あって出会った学生一人ひとりの人生を大切にする学院トップの理念に支えられ、大きな一歩につながったのだと思う。 キャリアサポート事業運営委員会委員 財津香壽子 |
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